マーク・ワイガート

ビジュアル・エフェクト・スーパーバイザー / マーク-ワイガート

CGアートは、いまや映像におけるビジュアル・エフェクトを狙うには欠かせない手法。だれも見たことのない「リアル」な映像は、どうやって生み出されるのか。今秋公開予定の最新映画「2012」を手がけるマーク・ワイガートに聞いた、CG最新技術から、制作秘話まで。




ビジュアル・エフェクト・スーパーバイザー / マーク-ワイガート

数々の映画で、ビジュアル・エフェクトのスペシャリストとして高い評価を得てきたマーク・ワイガート。彼が、現在手がけているのが、映画最新作「2012」(2009秋公開予定)だ。ビジュアル・エフェクト監督として、1年半かけて製作してきたこの作品も、今秋の公開を控え完成間近。ローランド・エメリッヒ監督もやってきて最終段階の打ち合わせをする、その合間を縫っての取材に、人懐っこい笑顔を見せながら明るく応じてくれた。その姿は、急速に進化する最新CGアートの途方もない制作現場を、誰よりも楽しんでいた。

ビジュアル・エフェクト・スーパーバイザー / マーク-ワイガート

Q.今回の映画『2012』に携わるようになったきっかけは。

これまで、ローランド・エメリッヒ監督とは何度も仕事をしているからね。「2012」は最初に脚本を読んだとき、とても気にいったんだ。単なる「ディザスター(災害)もの」ではなくて、家族愛やドラマチックな話が背景に描かれている。「これはぜひやらなくては!」ってね。

ビジュアル・エフェクト・スーパーバイザー / マーク-ワイガート

Q.「ビジュアル・エフェクト・スーパーバイザー」って、どんなことをするの?

一連の流れでいうと、撮影前は、まず監督と話し合いながら絵コンテを作る。それから大事なシーンをコンピューター・アニメーションである程度映像化。撮影中は毎日セットにいるね。後でCGで処理しやすいよう撮影されているか、常にチェックしているんだ。今回はヘリコプターに乗ってCG用の風景写真を撮ったりもしたよ。約2万枚。それだけでもは5ヶ月かかったね。撮影が終われば、下請けCG会社から送られてくる「ショット」と呼ばれる短いシーンを完成させていく。改良とチェックを何度も重ねて、ショットが出来上がってきたところで監督に見せて意見をもらう。必要があれば、そこからまた手直し。この映画で言えば、主要なシーンでは数分程のシーンで1年くらいがかかっているね。主人公がマグニチュード10.5の大地震が襲う街を車で逃げまどうシーンとか。どんな風景でも、木や建物、道など全てに影がつかなきゃリアルじゃない。でも、ものによって光の跳ね返し方が違うから、光が正しく反射して現実的に見えるようコンピューター処理して。だから、数分でも何人ものスタッフが何ヶ月も必要なんだ。

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Q 長期間に渡る細かい作業。仕事はどういうふうに まわしてる?

僕たちの会社「アンチャーティット・テリトリー」がユニークなのは、それぞれの映画に合わせて、一から組織を作り上げるんだ。「2012」は僕たちにとってこのやり方をとった、初めての大規模な映画でね。最初に何が必要かしっ かりと映画を分析する。映画と言っても、必要なものはそれぞれで違ってくる。ミニチュアがたくさん必要だったり、ライブ・アクションだったり。それを分析して、必要なだけの人材を雇う。今回の場合は100人ほどのフリーのアーティストを雇った。そして、次のプロジェクトでは、また最初から始めるんだ。あとは、世界中の14のCG会社に仕事を発注している。アメリカが10社、ロンドンとドイツに数社、インドと中国にも。この業界では人との個人的なつながりや信頼関係がとても大切。いくら素晴らしい作品をウエブサイトで見つけても、一度一緒に働いてみないとわからないんだよ ね。僕たちがアーティストを雇用するときも、以前に働いたことのある人 たちを雇うことが多い。世界中から来てるよ。南アフリカ、ドイツ、スイス、ニュージーランド、オーストラリアなどだね。

ビジュアル・エフェクト・スーパーバイザー / マーク-ワイガート

Q. 近年のCG技術の進化は、確かにすごい。

1980年後半まではほとんどCGというのはなかったね。1990年代になってようやく少しずつ見られるようになった。「インディペンデンス・デイ」でもコンピューター・アニメーションはビジュアル・エフェクト全体の7~8%だけで、残りはほとんどミニチュア撮影。それをコンピューター上で組み合わせてるんだ。「2012」は99%がCGで、1%がミニチュア撮影だね。この十数年で、CGレベルは急速に発展したよ。ここまで成長したのは、コンピューターのハードウエアのスピードが格段に向上したってことが大きい。1年半ごとにコンピューターのスピードが2倍になるみたいだからね。それに合わせてソフトウエアの開発も進んできた。新しいソフトウエアを探し出すことも僕の仕事の一つにもなってるね。

ビジュアル・エフェクト・スーパーバイザー / マーク-ワイガート

Q CGで創るのが難しいものは?

まだたくさん難しいものがあるよ。例えば水とかね。水は、青く見えたり、波ができたときなどに白くなってはじけてスプレー状になったり、複雑な要素が絡んでるから。大量の水が特別な動きをするときは、本当に難しい。この映画での初めて達成したビジュアル・エフェクトと言えば、大災害が起きている、そのど真ん中の状況を描き出せたってこと。引きのショットでなく、本当にその全てが崩れていく状況を表現することに成功したと思う。

ビジュアル・エフェクト・スーパーバイザー / マーク-ワイガート

Q. では、良いCGを創るのに必要なものは?

まず、現実的に見えるものを作れる技術を持ったスタッフがいること。それからリアルなものがどんなものかっていうことを、僕が知っていないとね。光が当たったときにどう見えるのか、風が吹いたらどう動くのか、影はどのように見えるか。だからビルの破壊場面や地震など、ありとあらゆるリサーチ用のビデオを観ているよ。ユーチューブのビデオとかもね。大地震の状況下なら、全てのものが動いて、揺れて、壊れる。ガラス、木材、通り、などそれぞれ壊れ方も違うしね。その壊れ方も実際にテストしてリアルさを、追求するんだ。だからすごく時間がかかる。2年、3年とかかることだって珍しくないしね。

ビジュアル・エフェクト・スーパーバイザー / マーク-ワイガート

Q. この仕事の面白さはどこにあると?

僕たちはよく外部の人に作った映像を見てもらって、それがどう見えるかテストする。そのときに「どれが実写で、どれがそうじゃないか」って聞くんだけど、半数は実写したものを指して「これは好きじゃない」って言うんだよね(笑)。実際に撮ったものがリアルに見えないことってよくあるんだよ。CGはこういう現実とも戦わなくてはいけない(笑)。逆に、実際には起こらないんだけど、人々がそう思っていることをつくらなきゃいけないときもある。時々嘘も必要なんだ。それが、CGの世界なんだよね。実は、次の映画は僕が監督することが決まってるんだ。映画の仕事で一番すばらしいと思うのは、後に残っていくものを創っているということ。この仕事の拘束時間は半端ではない。でも、僕は映画が大好き。そうでなきゃ、続けられてないよね(笑)。

「2012」 / 「世紀末的な災害により、2012年世界は滅びる」というマヤ文明の予言書を題材にした、SFアドベンチャー大作。人間の想像力を超えた大災害シーンには、200億ドルの予算をかけ、緻密でダイナミックなCG映像を実現。今年秋に世界同時公開される。(2009年米 監督/ローランド・エメリッヒ 配給/ソニー・ピクチャーズエンターテインメント)

マーク ワイガート / ドイツ生まれ。1996年『インディペンデンス・デイ』でビジュアル・エフェクト・プロジェクト・マネージャーに。その後数々の国内外のTV・映画を手がけ、1999年、友人であり仕事のパートナーであったヴォルガー・エンゲル(1996年アカデミー賞視覚効果賞受賞)とプロダクション会社「Uncharted Territory, LLC」を設立。2005年にプロデュースしたTV・ミニシリーズ「バミューダ・トライアングル」で、2006年エミー賞・特殊視覚効果賞を受賞。現在、2009年秋に公開予定の映画『2012』で、プロデューサー、ビジュアル・エフェクト・スーパーバイザーを務める。(公式ウェブサイト / www.marcweigert.net

 取材場所 カルバーシティ カリフォルニア
 取材 / 撮影 堀口 美紀
 編集 / 校正 高田 友美
 発行人 池上 奨
 版元 オーガスト マガジン


当頁は2009年から2011年にかけて発行されたエンタテインメント業界向けの無料情報誌「オーガストマガジン」をオンライン向けに再構成したものです。尚、記事や写真の無断転載及び無断引用は禁止いたします。



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