スクリーン アクターズ ギルド

スクリーン アクターズ ギルド SAG  映画俳優組合 オーガスト マガジン

美術館やオフィスビルが立ち並ぶ、ハリウッドのすぐ南を横切るウィルシャー・ブルバード。そんな一等地にスクリーン・アクターズ・ギルド(Screen Actors Guild:映画俳優組合)ハリウッド・ナショナル・ヘッドクォーターズが入るビルがある。1933年の設立以来、撮影業界における俳優の労働環境や適正な報酬などの向上を求め、大手スタジオにも対抗できる組織を作り上げてきた。約12万人の俳優が加入する、アメリカ・エンタテインメント業界の中でも最も影響力のある組合の一つだ。スクリーン・アクターズ・ギルド(以下、SAGと略す)のシニア・アドバイザー ジョン・マグワイア(以下、ジョンと略す)と歴史やアーカイブを担当するバレリー・ヤロス(以下、バレリーと略す)を取材した。




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ジョン マグワイア / ニューヨーク市生まれ。フォーダム大学院法学科を卒業し法務博士号を取得。ニューヨーク市法務局へ勤務後、SAGのエグゼクティブ・アシスタントとして1969年リクルートされる。後にエグゼクティブ・ディレクターとして契約交渉時には代表人として活躍。現在まで41年間SAGに勤める。ニューヨーク在住だがシニア・アドバイザーとしてロサンゼルス・オフィスへ毎月訪れている。

Q.SAGはどのように設立されたのか。

ジョン:1920年代、映画会社が大変力を持っていた時代ということもあり、SAGが設立される以前、映画俳優たちは主だった組合を持っていませんでした。不利な契約条件のもと、過酷な労働時間や一方的な給料の減額が行われていたそうです。そこで俳優たちが密かに集まり、組合を作ることを相談し、1933年にスクリーン・アクターズ・ギルド(SAG)が設立されました。しかし、組合の設立後5年間は映画会社は契約に応じることがなく、最初のストライキに入る前日に、ようやく契約を交わすことができたそうです。最初は映画で働く俳優だけが管轄だったのですが、後にTV、そしてTVコマーシャルで働く俳優へと広がっていきました。


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バレリー ヤロス / 演劇専攻で大学を卒業後、図書館員/情報サービスで修士号を取得。ドキュメンタリーのリサーチャーとして働く。1995年、英BBCテレビのドキュメンタリーでSAGを取材したのがきっかけでSAGの歴史調査/歴史的アイテムの収集担当者としてリクルートされる。1996年から現在まで、14年間SAGに勤務する。

バレリー:SAGが結成された当時は、エキストラ俳優を含む予定は全くなかったのですが、エキストラ達自身がSAGへ加入させてほしいと頼みこんだそうです。というのも、女性と子供たちはカリフォルニアの法律によって何らかの保護があったのですが、男性エキストラには何の保護もなかったのです。そこで、SAGが「1000人のメンバーを集めることができたら、エキストラのカテゴリーを作りましょう」という条件を伝えたところ、楽々1000人のエキストラ俳優が集まり、SAGの加盟を果たしたという経緯があります。


ジョン:SAGは給料をもらっているスタッフと、メンバーである俳優の中から投票によって選ばれる理事会員で成り立っていますが、理事は全てボランティアでお金は一切支払われていません。それはSAGの設立当時から現在まで続けられています。理事会長には、ジェイムス・キャグニー、チャールトン・ヘストン、元アメリカ合衆国大統領のロナルド・レーガンなど、各時代の著名人が選ばれました。またキャサリン・ノーランは初の女性理事会長でしたね。そして、今現在アメリカ全土に20のオフィスを構えるまでになっています。


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Q. SAGのメンバーはどの位いるのか。

ジョン:およそ128000人のメンバーが加入しています。男女の比率は女性が45%、男性が55%くらいですね。そのうち、年2万ドル(約180万円)以上を俳優業で稼いでいるのは15%ほどです。つまり85%は年2万ドル以下の稼ぎしかないということです。時間給で支払われる仕事で生活を支えるのはやはり難しいですよ。これだけたくさんの俳優がいても、それを満たすほどの仕事はありませんからね。


Q メンバーになるための条件とは。

ジョン:台詞のある役で、映画、TV番組、コマーシャルなどSAGの契約の元に製作されているプロダクションの仕事に最低1日以上雇われたことがあることが加入条件となっています。エキストラの場合は最低3日以上雇われることが必要です。他にもSAGが提携する俳優のためのユニオンがアメリカには4つほどあるのですが(演劇俳優のためのEquityやラジオ/TVの俳優・アナウンサーのためのAFTRAなど)それらに最低1年間メンバーである場合、SAGにも入ることが可能です。 加入の際には、まず2.277ドル(約20万円)の初期加入料を支払います。年間会員費は一律にかけられる116ドル(約1万円)に加え、SAGと契約する会社との仕事で支払われた額の年総額によって各自支払額が変わります。総額20万ドル(約1800万円)以下は1.85%、20~50万ドル(約1800~4500万円)は0.5%、50~100万ドル(約4500~9000万円)は0.25%の給料額を会員費として納めています。(100万ドルが上限)


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Q.日本人俳優の加入について。

ジョン:加入はもちろんできますし、条件は他のメンバーと全く同じです。ただ、日本の俳優組合とは同意書を交わしていないので、カナダを初めとする他国の同意書を交わしている俳優組合のメンバーのように、SAGの会員費さえ払えば自動的にメンバーになれるというわけではありません。日本の俳優組合と関係がないのに特別な理由はありませんが、単に今までそういう話が出たことがないだけですね。そんなに多くの日本人俳優がアメリカに来ることもないんでしょうしね。もちろん、SAGにも日本人会員はいますが、彼らはSAGと契約したプロダクションの映画やTVで働いて資格を取っていますので、日本の俳優組合と関係を持っている必要はありません。


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Q 会員のベネフィット(利益)について。

ジョン:まず会員にはSAGがプロデューサーと契約を交わしたレート以下の金額を支払われることがないということです。ちなみに、支払われる最低賃金額は、エキストラは140ドル/日(8時間)、CM俳優は600ドル/日、台詞のある俳優は800ドル/日と決まっています。また、撮影外で起きた怪我や病気などの治療・通院・入院などにおいて、俳優と共にその家族も補償される健康保険や年金があります。ただ、年間に1万ドル(約90万円)から2万5千ドルほど俳優業で稼いでいることが条件で、メンバーになれば誰でも自動的に保険がもらえるわけではありません。


その他に、プロデューサーがメンバーへの出演料を拒んだ場合はSAGが代理になり、確実に支払われるように手配します。映画がTVで放映されたりDVDになった場合も、出演料が俳優へ支払われるように確認しています。もし俳優が演じたビデオクリップが他のプロジェクトのために無断で使われた場合なども、SAGが責任を持って追求します。アメリカでは映画のコピーライトはプロデューサーにありますので、第3者がそれらの映像を使用した場合、俳優個人が無断使用した人を訴えることはできません。その場合、SAGがプロデューサーに第3者から費用を回収させることもあります。それができない場合、俳優は州の裁判所に訴え出ることができます。そのような背景もあり、私たちは俳優を守る条約が国際的に設立できるように世界中のたくさんの俳優組合と提携しているわけです。


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Q. 規則を破った会員へのペナルティーとは。

ジョン:メンバーの基本的なルールは、SAGと契約を交わしていないプロデューサーの仕事を請けないことです。そうしない限りプロデューサーたちにSAGの契約書に同意させることが難しくなるからです。もしそれが破られた場合、そのメンバーはSAG内の裁判に出席することになります。有罪が決まれば罰金が科せられたり、メンバーシップが一時停止になったり、あるいはSAGから追放になる場合もあります。


バレリー:また組合に関して面白い点は、プロデューサーに対しても公平であるということです。メンバーは契約上の規定を守る必要があります。単純なことですが、時間通りに仕事に行き、メイクや衣装のための準備をする。もし契約違反があればSAGから注意を受けることになります。つまり、プロデューサーがSAGに対して、メンバーの行いについて「クレーム」を言うことができるわけです。


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Q. エージェンシーや映画会社との関係について。

ジョン:俳優を起用する場合、プロデユーサーは私たちのウェブサイトから俳優の写真や履歴書を検索することも出来ますが、ほとんどの俳優はエージェントがいますので、プロダクション会社はエージェンシーに依頼します。そこで、私たちが扱うのは最低賃金の規定など、もっと大きな範囲のことになります。契約書では、エージェンシーの報酬レートだけでなく、俳優とエージェンシーが交わす契約書の有効期間、あるいは俳優がお金を稼げなかった場合はどうなるのか、などの項目も含まれています。映画会社との関係については、大まかに言って良い関係を保っていると思いますよ。ただ、3年ごとに契約書の更新ということで契約内容の交渉があります。映画会社の代表、プロデューサーの代表、広告会社の代表などと一室に集まって交渉します。映画・TVでの交渉期間は最短で3日間、最長で何ヶ月にも及ぶことがあります。大抵は2~3ヶ月で交渉が成立します。当然、そのときはやはりギクシャクした雰囲気になりますよね(笑)。また、ごく稀にですが、ストライキをしなければならない時もあります。

Q. SAG(組合)を嫌う人もいるのでは。

ジョン:確かにSAGで契約された規定を嫌うプロデューサーもいます(笑)。でもプロデューサーから聞くことなのですが、逆に規定がはっきりと決まっていることで、俳優を雇うたびにそのような交渉をしなくても済むという利点もあるようです。なのでお互いのためのシステムとして働いていると考えています。もちろん金額や規定については賛否両論あると思いますが、大きく見た場合、秩序とシステムを創り出していると思いますよ。


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Q. SAGと契約していない低予算の企画を撮影中、SAGが絡んだことにより、プロダクション・コストが上がったという話を聞きましたが。

ジョン:そのような例は聞いたことがないですね(笑)。ただSAGと契約していないプロダクションが撮影中に、SAGメンバーの俳優を雇いたいということで、SAGと契約することになった例はあると思います。SAGは状況に応じて数々の契約の種類があって、低予算映画用のもあるんです。そういった映画でのレートはもちろん低いですし、極端な場合、大学生が製作する映画などについては賃金レートも決まっていません。ただ、もしそういった映画が「市場」に入った場合は、俳優の権利を守ってもらうことになりますね。


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Q. SAGから見た、俳優の取り扱われ方について。

ジョン:もちろんプロデューサーの中には良い人もいれば悪い人もいる。SAGとの契約を煙たがるプロデューサーもいれば、プロデューサーという立場を悪用する人もいる。そこでSAGは俳優とプロデューサーの間に立ち、お互いが直接対峙するようなことを避けています。

バレリー:また食事や労働時間の規定に関して言えば、一定の時間を越えても食事休憩が持てない場合や8時間以上働くようなオーバータイムの場合は、プロデュサーは俳優に対してペナルティ代を払うことになります。こちらの意図から言わせてもらえば、本来これらのペナルティ代は長時間労働を防ぐために設定されています。高額なペナルティ代を払う必要があるならば、プロデューサー側は時間内に撮影を終わらせるだろう、と考えているわけです。が、全くそういうことはなく、結局撮影は長時間に渡るのが普通ですね。クリント・イーストウッドやウッディ・アレンなど、撮影時間が短いことで知られる監督もいることはいるのですが…(笑)。


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よって、SAGが設立当初から訴えている休息時間の確保ですが、翌日の仕事の開始時間まで15時間空けるという条件は未だ12時間しか認められていません。メイクを落として、衣装を着替えて、明日の台詞も覚えなくてはならない。移動時間も要りますしね。12時間というのは俳優にとっても長い時間ではありませんよ。また、最長労働時間の制限が設けられていないという点も非常に問題視してます。何かをセットしなくてはいけない、何かがうまくいっていないなど、待機時間は本当に長いですよね。ただ、クルーの方はペナルティ代を含めると賃金が2倍になるのでオーバータイムの仕事を好む傾向があります。でも健康は?家族との時間は?と疑問は残りますよ(笑)。


確かに映画業界の人たちは1年中仕事があるとは限りませんしね。数ヶ月だけ働いて、残りはずっと休みの可能性もありますが、実際、10年ほど前に、長時間の撮影後の帰宅途中、居眠り運転をして亡くなった人がいるのも事実です。なので、俳優の安全面を考えた上で、長時間労働は大変非人道的と考えています。ただ、これがこの業界のビジネスの在り方というか…。皆が「やめた」というまで働き続けるんですよね。決してすべてをネガティブに捉えているわけではありませんが、私たちが一生懸命に動いているのは、たぶんそういう世界なんです(笑)。


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スクリーン・アクターズ・ギルドの歴史背景

ニューヨーク・ブロードウエイの演劇が全盛期の1920年代。演劇俳優組合がある東海岸とは対照的に西海岸ロサンゼルスでは、映画がトーキー(発声映画)へ成長するなか、外部の音を遮断できるスタジオ不足を理由に、映画俳優に対する拘束時間や低賃金など、労働環境の悪化が問題視されていた。そこで1927年、プロデューサー、ライター、監督、俳優、技術者の5つの支部を持つ「映画芸術科学アカデミー(AMPAS)」が創設され、初めて映画会社と雇用契約を交わした団体となる。ただ1929年、世界恐慌や経済政策を理由に、映画会社がAMPASを通して俳優の賃金減額を一方的に発表したため、1933年、一部の俳優が「労働環境の保護」を訴え「スクリーン・アクターズ・ギルド(SAG)」を設立する。当初、加入者数の問題を抱えていたSAGだが、主役級の俳優が多く加入するAMPASもまた、俳優に対して不利な条件下で雇用契約を迫ったため、ほとんどの俳優がAMPASを脱退、SAGへ加入することになる。1937年、映画会社がSAGと雇用契約を交わした際、AMPASは雇用に関する交渉から一切手を引き、アメリカ映画の祭典、アカデミー賞を授与する団体として活動している。そして、SAGは2011年現在で約12万人の俳優が加盟するアメリカ・エンタテインメント業界の中で最も影響力のある組合にまで成長した。なお加入している俳優の個人名については非公表としている。


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2009-2011 Contract Summary (契約概要)THEATRICAL MOTION PICTURES and TELEVISION

 面接 拘束が1時間以内の場合、賃金の発生はありませんが、それを超える場合、30分単位の規定賃金を補償頂きます。 その際は、駐車場の提供または駐車料金を補償頂きます。
 メイク・ヘア・衣装・フィッティング 撮影日以外の上記に関して、1日単位で契約している役者の場合、1時間の最低賃金を補償頂きます。 延長時間は15分単位で計算されますが、1日$1000以上支払われている場合、賃金の加算はありません。
 撮影場所までの移動方法 飛行機で移動の場合、ファーストクラスを保証頂きます。飛行機での移動手段が無い場合、バスでの移動も可能です。 ただし面接やオーデションの場合、ファーストクラスである必要はありません。宿泊施設は1人部屋を保証頂きます。 食事提供が不可能な場合、1日の最低飲食費として$60を補償頂きます。
朝食 / $ 12.00
昼食 / $ 18.00
夕食 / $ 30.00
 休息時間 (1)スタジオ撮影の場合 撮影終了時間から翌日の集合時間まで、12時間の休息時間を保証頂きます。
(2)ロケーション撮影の場合(近郊) 撮影終了時間から翌日の集合時間まで、12時間の休息時間を頂きます。 ただし、4日に一度、休息時間を10時間に減らすことが可能です。 テレビ撮影の場合、撮影初日に休息時間を10時間に減らすことは認められません。
(3)ロケーション撮影の場合(遠方) 1週間に二度、休憩時間を11時間に減らすことが可能です。 テレビ撮影の場合、休憩時間を12時間以下に減らすことは認められません。
 食事時間の違反 集合時間から6時間以内に「最初の食事休憩」を保証頂きます。 ただし、クルーの食事時間と合わせるために、集合時間から2時間以内に15分の軽食時間を設け、 その後、6時間以内に最初の食事休憩を設けることは可能です。 その場合、スケジュールに軽食時間の開始および終了時間を明記頂きます。 プロデューサーが、役者の労働時間から食事休憩1時間を差し引くことは可能です。
食事休憩が6時間以内に設けられなかった場合、 $25の罰則金。6時間30分以内の場合、追加で$35。7時間以上の場合、30分経過毎に$50の罰則金が加算されます。 (例:7時間10分後に食事休憩となった場合、$25+$35+$50=$150の罰則金)


上記は2009年から2011年におけるスクリーン・アクターズ・ギルド(SAG)の契約概要(映画及びテレビ)の一部を抜粋及び翻訳したものになります。現在の契約概要とは異なっている可能性もございますので、予めご了承ください。


 取材場所 ロサンゼルス カリフォルニア
 取材 / 撮影 堀口 美紀
 編集 / 校正 高田 友美
 発行人 池上 奨
 版元 オーガスト マガジン


当頁は2009年から2011年にかけて発行されたエンタテインメント業界向けの無料情報誌「オーガストマガジン」をオンライン向けに再構成したものです。尚、記事や写真の無断転載及び無断引用は禁止いたします。



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