ロバート ウィラー / ロバート ヤング

オーガスト マガジン 映画警察官

アメリカでは路上で撮影をする場合、必ず地元の警察官が立ち会うことになっている。カー・チェイスや爆発シーンなどが多いLAでは、こういった撮影を警備する警察官の存在は欠かせない。今回はこの職に就く二人のベテランを紹介したい。




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「20秒前!」。1st ADが叫び、残りの秒数を読み上げると、配備していたオフィサーたちが時計をチェック。「OK! 1,2,3…」車を止めていた別のオフィサーにOKの合図が送られると、一斉に車が流れ始めた。日本で撮影を試みたことがある人なら、この風景には驚くかもしれない。撮影のために、公共の道路を警察官が塞ぐなんて、日本ではほぼありえないからだ。一度につき2分までという制限時間はあるものの、ここLAでは完全に車の流れを止めてしまうことができる(もしくは迂回路が作られる)。撮影クルーと市民との境界線をつくり、両者の安全は守る。それが、撮影に携わるオフィサーこと、映画警察官たちの仕事だ。

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ウィーラー氏: 撮影現場では交通整理が僕たちの主な仕事なんだ。だけど、警官の制服を着ていた方が、通行人にもすぐにわかってもらえるからね。映画でのキャリアは長いからね。路上の撮影については慣れたものだよ。




ヤング氏: 僕たちは、LA市からこの仕事の権限を委任されてるんだよ。いまLAには、撮影現場で働いている元警官が180人ほどいるんだけど、LA以外の市では、現職の警察官が警備についてることがほとんどなんだ。LAには警察官を辞めた後も映画の現場を希望するオフィサーがたくさんいたから、市議会と警察署とが協力してシステムを作ったんだよ。そのほうがいいと思うよね。元警官が撮影現場の仕事をすることで、現職警官は本来の犯罪防止に集中できるからね。

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議会をも動かしながら元警察官たちとの協力体制を作ったのは、やはり映画の街LAならではだ。もちろん、彼らに対する行政からの管理体制も厳しい。仕事をするうえで健康であること、オフィシャルな制服やバイクを使用しているかなども市がチェックし、2年ごとに就労許可証が出される。市民から苦情の電話が入れば、彼らを調査することもあるという。公共の路上で撮影が行われる場合、映画警察官の雇用は必須とされている。撮影が決まれば、プロダクションは、フィルム・パーミット・サービス(撮影許可申請を代行する会社)に連絡。撮影の日時、場所、規模のほか、オフィサーの必要人数を申告すると、登録者リストからピックアップされたオフィサーたちに連絡が入るようになっている。

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ウィーラー氏: 大体前日の3時半過ぎに翌日の仕事のアポが入るんだ。通常一つの撮影に最大でも12人程度のオフィサーが雇われるんだけど、一度、16人雇われたこともあったよ。そういう大人数の時は、大体ダウンタウンの大通りでの長距離撮影の時で、道をかなり塞ぐ必要があるからね。多くの場合は1~2人くらいで、警察がちゃんと関わってるっていうのを示すためだけのこともあるんだよ。

ウィーラー氏: ダウンタウンで撮影するときは、平日の午前7時~9時と午後3時~7時の通勤時間帯に道を塞ぐのは禁止されてる。ダウンタウンの道を塞ぐのは週末が最適だね。6th St.みたいに、塞げるのは週末だけって決まっているところもあるんだよ。

ヤング氏: ほとんどの場所は撮影許可がとれるようになってるんだけど、例えば消防署の前などはもちろん許可はとれない。あと、アート・ディストリクトやファッション・ディストリクトで撮影するときは、ある一定の時間しか許可がでないし、地区内にある全ての店に2日前までに事前通告しないといけないんだ。バス停の前や、大きな公園内で撮るときも、それぞれの管轄の場所に知らせるよう義務付けられてる。それに、銃撃音や爆発がある撮影では、近隣や近くの学校にも知らせないといけないしね。




ウィーラー氏: 撮影で道をふさぐことについては、みんなから文句を言われるよ(笑)。でもLAは映画で成り立っている町だし、皆そこら辺のことは理解してくれてると思うよ。大体の通行人は面白がって見てるしね。

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ただ、映画撮影は、交通整理や警備だけで終わるものばかりではない。ダウンタウンには、2つの犯罪多発地域がある。ひとつは、5th St.とMain St.の周辺。もうひとつは 7th St. 沿いに位置する110FWYの北側、ランパートと呼ばれる地域。ともに、よくガン・ショットが聞かれ、治安がかなり懸念される地区だという。こういった場所の付近で撮影が行われる場合、あまりに危険なときは撮影を中止することもある。映画警察官としては、そのような場合には警察に通報し、クルーたちと行動を共にすることになっている。

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ウィーラー氏: 地域によっては危険が多いところはあるけど、フィルム会社も大抵はそういう危険な地域は避けるようにしてるね。まあギャング映画だったらそういう場所にも行かなければならないけど、トヨタのCMを作るのにそういうところでやる必要はないからね(笑)。

ヤング氏: これまで一度も銃を使ったことはないけど、でも使わなくてはいけないかなと思った時もあった。ダウンタウンには、いろんな人がいる。ホームレスやドラッグ常習者たちとも対応しないといけない。でも僕たちは普通の警官のように法律を規制するためにいるわけではないから、どちらかと言えばフレンドリーな対応をとるようにしてるんだよ。南ロサンゼルスでTVショーを撮影してたとき、ギャング達がやってきて威嚇し始めたことがあったんだ。そういうときはクルーの安全のためにギャング達を監視しながら撮影を手伝う。もし暴力的になってしまったら、僕たちは、警察を呼ぶか、それを止めようとすることはできるんだ。銃を使って犯罪者を逮捕しなくてはいけなかったオフィサーもいたけど、大体そういうときは警察が現れるまで捕まえておくだけだね。




ウィーラー氏: それに、所持する銃は警察署である程度の制限が設けられていて、持っていけるのは38mm、45mm、9mm。ショット・ガンとかサブ・マシーン・ガンとかは持って行けないルールになってるよ。ちょっと目立ちすぎるからね。

ヤング氏: 撮影中の車と、通行人や一般の車が事故を起こすことはまずない。それが僕らを雇う第一の理由だしね。撮影で道を塞ぐときでも、パトカーや救急車が通れるように必ず十分な場所を空けるか、迂回路をつくるようにしてるよ。一番の優先順位だね。

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現実なのかを疑うような話だが、改めて、撮影クルーや市民、そして映画そのものが彼らによって堅く守られているのだと思い知らされる。現職警察から退き、なおも映画という現場で職務に就く日々。その一方で、独自の創作活動も精力的に行っている二人の笑顔が印象的だった。少し肩の荷を降ろし、現職のときとは違う「仕事のおもしろさ」を味わっていることも確かなようだ。

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ウィーラー氏: 仕事以外の時間は、大体ガーデニングか絵を描いているよ。絵は抽象画なんだけど、この4年間で300枚ほど描いて、101枚が売れたんだ。昨年の12月には、パリのルーブル美術館にも展示されたし、元共和党副大統領候補のサラ・ペイリンのオフィスにも僕の作品が飾ってあるんだよ。たくさんの人が僕の作品をコレクションしてくれてる。いつか日本のギャラリーにも飾れるといいよね(笑)。

ヤング氏: 僕も10人も孫がいるからけっこう忙しい(笑)。実は木彫りが好きでね。1970年頃から始めて、アドレスサインやボート用、店舗用の大きなサインも造るんだ。自分で家を建てたりもするし、家具を造ったり、アンティークの修理なんかもできるよ。僕たちの仕事は、映画でも犯罪でも、とにかく人と働く仕事だと思っている。映画で働くってのは、現役警察官として感じていたやりがいともまた違う。映画は、監督やプロデューサーや、有名な俳優とか色んな人と関わって、一つのゴールを目指してチームの一員として働くわけだからさ。それはまた、全然違った楽しさなんだ。

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ロバート ウィラー(写真左) / ハリウッド生まれ。1970~1980年ロサンゼルス警察に勤務。1971年頃から映画警察官として働きはじめ、警察を辞職後も継続。これまで多数のTV番組、映画、CMの撮影の警備にあたる傍ら、コマーシャル俳優、小説家の道も追求。4年前からは抽象画家として成功もおさめている。

ロバート ヤング(写真右) / ノース・ハリウッド生まれ。1968~1999年ロサンゼルス警察に勤務。1971年頃から映画警察官として活動。1999年に警察を辞職後、アメリカン・エクスプレスの詐欺防止部門、また歌手シェールのセキュリティ・ガードとして働く。2001年に復帰し、トム・クルーズ主演「コラテラル」(2004)やキアヌ・リーブス主演「コンスタンティン」(2005)などの映画や多数のTV番組、CMの撮影を担当。

 取材場所 ロサンゼルス カリフォルニア
 取材 / 撮影 堀口 美紀
 編集 / 校正 高田 友美
 発行人 池上 奨
 版元 オーガスト マガジン



当頁は2009年から2011年にかけて発行されたエンタテインメント業界向けの無料情報誌「オーガストマガジン」をオンライン向けに再構成したものです。尚、記事や写真の無断転載及び無断引用は禁止いたします。





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