広告の中で、さまざまなファッションや商品を見にまとい、ブランドの世界観や物語を彩る美しいモデルたち。華やかで豪華絢爛な世界を演出するモデルたちにとって、「美しさ」とは一体何か? 世界的なモデル・エージェンシー、l.a.modelsを率いるハインツ・ホルバ氏に話を聞いた。
ハリウッドのサンセット通りにある元銀行の白い建物。周りにはアパートや住宅が並ぶ、観光スポットから少し外れた静かなエリアだ。 取材先の事務所の入り口に入ると、在籍モデルの写真らしい、PRADA、Calvin Klein、Elleやなどの広告が大きなパネルになって飾られていた。ロサンゼルス最大手のモデル事務所、l.a.modelsには400名ほどのモデルが在籍する。1985年にハインツ・ホルバ氏がスタートし、現在では世界中にモデルを派遣。日本の大手のモデル事務所、エリート、フォリオ、サトル、イマージュなどとも取引のある、一流のモデル事務所だ。約束の時間から20分ほど過ぎて、ようやくホルバ氏が現れた。「遅れてしまってごめんなさいね。渋滞がひどかったもので」と丁寧に謝り握手を交わすと、取材に応じてくれた。
モデル事務所をやっていく上で一番難しいことは、人との関わり方ですね。若い子達やフォトグラファー、クライアントなど、とにかく多くの人と関わることになりますから、人の感情や感性と大きく関わってくるというか。だから一人ひとり、個人的に気を配るようにしています。モデルだって人間で、それぞれの個性にあった扱いを望んでいますから。l.a.modelsの良さは、大きな仕事を請け負える規模を保ちながら、モデルへの「個人的なケア」を徹底していること。僕の下で働くエージェントは22人。モデルの数が400人ほどだから、平均するとエージェント一人あたりモデル約20人を担当することになります。ここにいるエージェントは、モデルやクライアントへの接し方をよく理解していますよ。素質のあるモデルや流行を見抜く目を持っているし、それに、クライアントによって、どんなモデルを必要としているかもわかっている。ほとんどが長年経験を積んできた人たちばかりですから。
モデルとしてやっていけるかどうかは、すぐに見抜くことができます。ただ、外見は50%にすぎない。あとの50%は人柄で決まる。協調性があるかとか、忍耐力があるかとか、そういうことですね。仕事にきちんと向き合い、周りの人にも親切で、海外での仕事が入っても時差ぼけや疲れを感じさせない。そういった人間性がある人でないとやっていけないんです。世の中には美しい人がたくさんいます。クライアントは、たくさんの美しい子たちの中から、最も性格のいい子を選ぶ。モデルになりたがってる人たちはたくさんいるけど、本当に成功していけるのは数百人に過ぎないのはそういうことです。
モデルは、カメラで撮影したときに美しく見えることが重要。顔の均等性や体のプロポーションなど、基本的なことはもちろんだけど、ものすごい美人でも写真を撮るとそう見えない人もいますから。逆に、平凡に見える人でもメイクをして撮影すると、見違えるように美しくなることもある。白いキャンバスと同じで、実はあまり特徴のない顔の方がモデルとしてはいい。メイクによって異なった“世界観”が作りやすいから。あと、健康的に見えるのも大切。タバコを吸いすぎていたり、飲みすぎていたり、ドラッグをやっていたりすると、必ず肌に現れます。もともとの美しさも大切ですが、健康的で、生き生きとしているイメージを出せることがとても大切なんです。それで、撮影に応じて個性が出せたりするとさらにいい。
アメリカで日本人モデルが成功する可能性はあるでしょうが、ここではアジア人の市場が小さいということはあるでしょうね。人口の割合から言っても、ヒスパニック系モデル市場の方がアジアよりも大きい。例えば、7、8人のモデルをグループで撮影する場合、人口分布に沿って、アジア人1人、ヒスパニック系1,2人、黒人1人という構成になるでしょうね。東京でもパリでもロンドンでも、トップモデルというのは常に国際的に仕事をしています。例えば香水にしても一流ブランドなら世界中で発売されますよね。都市によって求められるモデルのタイプが違うわけではないんです。ルックスに関しては、どこも皆できる限り美しいモデルを探している。後はクライアントの予算によるわけですね。いまは不景気ですが、こういうときでも人は服を買うし、TVも観るのだから、決して広告業がなくなったわけじゃないですよね。まあ少しビジネスは減ったけど、だからこそ、より良いサービスを心がけていくこと。レートが前より下がることもあるけど、いまも仕事が入ってきているってことが、一番大切なことです。この仕事は、とてもクリエイティブなビジネス。常に変化し続ける業界ですから、毎年違うことにチャレンジしないといけない。でもそれは、僕にとっては、とてもエキサイティングなことなんです。
最後に部屋を出て、光のあるオフィスの方でホルバ氏の写真を撮らせてもらった。照れくさそうに構えるホルバ氏に気づいたエージェントたちは、次々と冗談混じりにはやしたてる。「エージェントやるよ!」「コミッションはもらえるのかしら?」和気あいあいとした雰囲気は、ひんやりとしたモデル事務所のイメージとはかけ離れていた。エージェントの一人がホルバ氏について語る。「彼はとても謙虚で素晴らしい人なの」。外見重視の業界で、彼がここまで成功してきた秘密が何となくわかるような気がした。
エル エー モデルズ / 1980年代前半から、ロサンゼルスにて国際的なフィールドで活躍するモデル事務所の立ち上げに尽力してきたハインツ・ホルバ氏が、85年に「l.a.models」としてスタート。95年にはニューヨークにも事務所開設し、世界中に一流モデルを派遣する、ロス最大のモデル・エージェンシーとなる。現在は、テレビコマーシャル用のモデルマネジメント部門「LA TALENT 」、ヘアメイクやファッションなどスタイリストをマネジメントするアーティスト・マネジメント部門、キャスティング・スタジオ部門も合わせ、計5つのオフィスを運営している。(公式ウェブサイト / www.lamodels.com)
取材場所 | ハリウッド カリフォルニア |
取材 / 撮影 | 堀口 美紀 |
編集 / 校正 | 高田 友美 |
発行人 | 池上 奨 |
版元 | オーガスト マガジン |
当頁は2009年から2011年にかけて発行されたエンタテインメント業界向けの無料情報誌「オーガストマガジン」をオンライン向けに再構成したものです。尚、記事や写真の無断転載及び無断引用は禁止いたします。
撮影関連会社を退社後カリフォルニア州ロサンゼルスに渡米。帰国後<アメリカ製>の雑貨や自転車(Schwinn製)などの輸入販売をオンライン上で開始。2016年。イリノイ州シカゴに拠点を置く仮装用マスク及びコスチュームの製造販売を行うZagone Studios製品の販売を開始。2020年。正式にZagone Studios Japanとして日本国内における同製品の輸入販売業務を開始。趣味はモトクロスバイク / バーベキュー / ピンストライピング / サーフィン / 釣りなど…