ディミトリー エル

フォトグラファー オーガスト マガジン

ポジティブなエネルギーが満ちる右手をさっと差し出し、力強く握手を交わす。被写体と「コネクト」することが最も大切だと考える、彼らしい挨拶の仕方だ。今回は映画業界につながりの深いノースハリウッドで、フォトグラファーのディミトリーのスタジオを訪ねた。




僕は写真を趣味で始めたんだけど、すぐにこれを仕事にしたいと思うようになったんだ。僕にとって写真は、自分が見た世界とその中の人を表現するための方法だって気がついたからなんだ。これまでたくさんの人たちから写真やビジネスの方法を学んできたよ。最初の転機は「OYE(Open Your Eyes) 」という雑誌の撮影でルイス・ガズマンを撮ったときだね。雑誌の撮影ってだけでなくて、有名な俳優だからね! とても緊張したのを覚えてるよ。


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でもセットに入ったら、彼が外でタバコを吸っていてね。「君が今日のフォトグラファー?」と聞かれて、それから少し話をしてたら、僕たちがNYの同じ町の出身だってことがわかったんだ。彼はたくさん冗談を飛ばすものすごく面白い人でね。自分が何をしに来たんだか忘れるくらい、彼と話し込んでしまったよ。もちろん、その後の撮影はうまくいったよ。


初めての広告撮影はヒップ・ホップ・ファッション・ブランドの「マカベリ」で、カミリオネア(2007年グラミー賞受賞のヒップホップ・ミュージシャン)がモデルだったんだけど、それは彼が有名になる前のことでさ。彼にとって初めての撮影だったんだ。僕はその頃にはもう何年か経験を積んでたんだけど、彼は少し緊張してるみたいだった。今でもイベントで彼と会うと、「最初のフォトシュートをしたフォトグラファー」ってことで僕のことを覚えててくれるんだ(笑)。何しろこの業界、一緒に仕事をしても思い出してもらえないことが多いからね。彼とはすごくいい撮影ができたし、グラミー賞をとるようなアーティストの初めてのフォトグラファーだったってことは、すごく光栄なことだと思うしね。だからこの撮影は僕にとって特別なものになったよ。



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もうひとつ、忘れられないのは、LAで人気のジャーナリスト、ハル・フィッシュマンを撮影したときだね。撮影の日、彼は僕をTVスタジオの中に案内してくれて、ニュース・ジャーナリストが日常どんな仕事をしているかを教えてくれたんだ。悲しいことに、ハルはその数ヵ月後に亡くなってしまった。でも、撮影を通して、これだけの人物のエッセンスを掴めたっていうのは、僕にすごく大きな影響を与えたよ。それに、これが彼の生前最後のオフィシャルなフォトシュートだったらしくて、僕の撮った写真が、色んなメディアで使われることになったんだ。すごく光栄なことだよね。


僕の家族や友達にはとても支えてもらってるよ。ここまでやってこれたのは、本当に彼らのおかげ。特に僕の妻はサポートシステムの不可欠なパートナーだね。僕たちの間ではジェラシーってものは存在しないよ。独立後はもちろん他のフォトグラファーと同じように、それ相応の努力はしなければならなかった。でも、全ては学びの過程にあるものだし、僕が今持っているものは、それら積み重ねの時間があってこそだから、感謝してるくらいだよ。僕のこれまでの成功は、写真ビジネスについて学ぼうと常に努力してきた結果でもあるし、また、個人的なレベルで人と関われる僕の能力にもよると思う。


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撮影するとき、僕はいつも撮影対象とつながる方法を探すんだ。どこで生まれたかってことから、好きな音楽のことまで、何だっていい。他人を理解しようとすると、結局自分の経験と重なったりするよね。皆どこかでつながっているんだよ。そうした安心感が被写体をリラックスさせて、彼らからたくさんのものを引き出せるようになる。いい撮影をするためには、信頼が全てとも言えるね。だから、なるべく僕が撮りたいと思う方法を伝えるようにしてる。そうすると皆安心するんだよ。僕がしようとしていることに信頼を置いてくれるようになるんだね。


撮影はたいてい一人で行うのが僕のスタイル。なるべくセットには人がいない方が被写体にとってはいい環境ができると思うんだ。だってその人を撮るために撮影するんだから、僕はしゃしゃりでたりはしないよ。撮影中は、僕自身の存在はどうでもいいことだからね。僕のビジョンは必要かもしれないけど、それをどうするかは、被写体が決めることだしね。僕は、被写体のエッセンスを捉える手助けをしてるだけだと思ってるよ。


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アメリカでも多くのプロが、デジタルカメラか、ミディアム・フォーマットのデジタル・バックを使い始めてる。フィルムはもうそれほど使われてないよ。僕もデジタル・テクノロジーはここ数年でかなり取り入れてきたね。良い面・悪い面両方あるけど、結局フィルムとデジタルどっちを使うかってのは、全て顧客のニーズによるものだしね。僕の愛用品は、35mmはニコンのデジタルで、ミディアム・フォーマットだとマミヤかハッセルブラッド。ニコンがお気に入りなのは、色がより自然だから。アメリカでは、警察やFBIでも、その理由でニコンが使われてるんだよ。


やっぱり、たくさんのセレブやブランド広告を撮ることで、周りも少しずつ「特別扱い」してくれるようになったね。チャージする値段ももちろん上がっていく。彼らも高い金額を払いたくないとは思うけど、でもそれだけの価値があるってちゃんとわかってるんだ。写真の質の高さだったり、納期の短さだったり、プロフェッショナルな態度だったりね。この不景気の状態はいつまでもは続かないと思うし、個人的にはもっと状態がよくなったときのことを考えてるよ。それまでは一生懸命働いて、前向きにやってくしかないと思うしね。写真業界はテクノロジーとともに動いていくと思う。デジタル・フォトがここまで発展したっていうのは本当に驚くべきことだし、将来どうなるかが本当に楽しみだよ。僕のこれからの目標は、この分野での知識をもっと増やしていくこと。たくさんの人の人生に関わっていきたいからね!


ディミトリー エル / ニューヨーク生まれ。8年ほど前から写真を始め、現在は、ファッション、雑誌、セレブリティなどの分野で活躍中。ルイ・ビトン、マカベリ、ベン・シャーマンなどのファッション・ブランドの広告や、有名人のポートレートを数多く撮影。芸能雑誌『Life & Style』、女性雑誌『Jane』などにも掲載されている。

 取材場所 ノース ハリウッド カリフォルニア
 取材 / 撮影 堀口 美紀
 編集 / 校正 高田 友美
 発行人 池上 奨
 版元 オーガスト マガジン


当頁は2009年から2011年にかけて発行されたエンタテインメント業界向けの無料情報誌「オーガストマガジン」をオンライン向けに再構成したものです。尚、記事や写真の無断転載及び無断引用は禁止いたします。



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