アメリカで行われる撮影には欠かす事のできないモーターホーム業界。その最大手のメディア・プロダクション、「キホーテ」のトランスポーテーション・ディレクターであるアダム・ ルードマンが成し遂げたのは、業界で初めての100%バイオディーゼル車導入だった。
「従来のモーターホームに比べ、多少パワーは落ちるけど、きれいだし、煙が少ない。だからスペイン語で「緑」という意味の「ヴェルデ」と名付けたんだ。今どこでも皆バイオディーゼルには取り組んでるけど、100%の植物油を使っているのは今のところ大手の会社ではうちだけだと思うよ」。「ヴェルデ」は、環境にやさしいだけではない。最新テクノロジー・ネットワークも完璧だ。例えば、砂漠のような携帯電話の電波が届かないところでも人工衛星を使ってインターネット接続が可能。さらには、アイチューンの音楽をスピーカーから流したり、レーザープリンターで印刷したりなどが、全てワイヤレスでできるようになっている。「ジョージ・クルーニーや、カニヤ・ウエスト、アリーシャ・キーズ、シールやベッカムなどの大物セレブも気に入ってくれたし、リピーターも続出してる。業界ではとても人気のあるモーターホームになったね(笑)」。
それを裏付けるかのように、インタビュー中に、環境をコンセプトにした雑誌社から取材依頼の電話が鳴る。「ヴェルデ」の評判は確実に広まっているようだ。もちろん、今日にいたるまでには苦境も乗り越えてきた。「僕が2年前にキホーテに雇われた時、会社の売り上げは少し落ちていたんだ。というのも、数年前、他の数社が新しい装備を加えた車両を作って、それがキホーテのシェアを持っていったんだ。お客さんは皆新しいものを試したいからね」。巻き返しを図るために挑戦したのが、オーナー達に環境問題をもっと意識してもらうビジネス、つまり、100%純粋な植物油を使ったバイオディーゼル車「ヴェルデ」の導入だったわけだ。近年、業界におけるエコ意識は高まりつつあるとはいえ、実際の導入が成功するかどうかについては未知数だったに違いない。今、彼のキホーテでの活躍についてどんな思いでいるのだろうか。
「実は、これは僕にとって初めてのフルタイムの仕事でね。今まではずっとフリーランスで自由にやってたんだ。でも僕はここで夢の仕事をしているよ。ヴェルデを開発して、100%のバイオディーゼル車を導入できた事はとても思い出深いこと。競合たちは今、こぞって僕たちの真似をしようとしてるんだ。それは、環境のことを考えるための良い影響を業界にも与えられたってことだし、すごく嬉しく思っているよ。
キホーテのオーナーは、とても進歩的な考え方の持ち主で、僕のアイデアやアドバイスにも熱心に耳を傾けてくれる。とてもクリエイティブで楽しい仕事をさせてもらっているし、もちろん顧客からの高い評価も、とても励みになっているよ」。そして、夢の職場を得たアダムが次に目指したのは、キホーテこそが最も顧客のニーズに対応していることをもう一度「ハリウッド」に知らせることだ。
顧客の仕事をよりやり易くするのが僕たちの使命だからね。それが伝わった時に、お客さんは自然と戻ってきたよ。さっき話した、数年前にキホーテのシェアを奪った競合達は、僕らほどハイテクなものを持ってはいないんだ。壊れた時に修理する人がいないから、彼らは僕達のように、相互性のあるテクノロジーを取り入れられないんだよ」。実際キホーテでは、配線工、配管工、大工などの工事スタッフ、設備を維持するためのメンテナンススタッフを雇っている。
つまり、モーターホームやトレーラーは全て自社で改造する事ができるのだ。(「ヴェルデ」については車両本体及び改造費に約2500万円、トレーラータイプは約3500万で済むという。)「もし何か問題が発生しても直ぐに対応できるスタッフがいるし、故障が起きないよう常にメンテナンスもしてるから安心なんだよね。ただ、車両自体は結構長く持つけど、内装に関して言えば2、3年で変える必要があるけどね(笑)」。
時代の流れに敏感で、新しいテクノロジーを取り入れる努力をし、常に競争の1歩先にいること。それを追求したからこそ、この業界で異例とも言える数字、今期売上高34%増を記録したのだろう。偉業を達成したアダムに、今後の目標を聞いた。「この部門を、より環境のことを考える方向へ引っ張っていきながら、もっと大きくしていくことかな。来年にはNYにも進出しようと計画中だしね。日本からのスタッフももちろん大歓迎さ(笑)。キホーテはCM撮りや写真撮影向けのモーターホーム・トレーラーを提供する会社としては最大手なんだけど、これからは映画やTV番組の撮影用にも使ってもらえるよう、車体数を増やしていくつもりだよ」。
アダム ルードマン / オクシデンタル・カレッジで映画と経済学を専攻。映画プロダクションで経験を積んだ後、メディア・プロダクションQuixote(以下、キホーテ)のトランスポーテーション・ディレクターに抜擢される。入社後、100%バイオディーゼルのモーターホーム「ヴェルデ」の開発を進め、業界をエコロジーよりに導くほか、最新のテクノロジーを装備した車両を提供するため毎日奮闘中。
キホーテ / スタジオ、車両、撮影機材、メイク等の専門部門を持つ、ハリウッド最大手のメディア・プロダクション会社。スタイリッシュな内装と、テクノロジー・環境問題の両点で時代の最先端を行くトレーラー/モーターホームを提供。雑誌、広告用の写真撮影や、米人気TVドラマの撮影にも使われる巨大な撮影スタジオもロサンゼルス各地に15ほどある。(公式ウェブサイト / http://www.Quixote.com)
取材場所 | ロサンゼルス カリフォルニア |
取材 / 撮影 | 堀口 美紀 |
編集 / 校正 | 高田 友美 |
発行人 | 池上 奨 |
版元 | オーガスト マガジン |
当頁は2009年から2011年にかけて発行されたエンタテインメント業界向けの無料情報誌「オーガストマガジン」をオンライン向けに再構成したものです。尚、記事や写真の無断転載及び無断引用は禁止いたします。
撮影関連会社を退社後カリフォルニア州ロサンゼルスに渡米。帰国後<アメリカ製>の雑貨や自転車(Schwinn製)などの輸入販売をオンライン上で開始。2016年。イリノイ州シカゴに拠点を置く仮装用マスク及びコスチュームの製造販売を行うZagone Studios製品の販売を開始。2020年。正式にZagone Studios Japanとして日本国内における同製品の輸入販売業務を開始。趣味はモトクロスバイク / バーベキュー / ピンストライピング / サーフィン / 釣りなど…