ロバート デービッド ホール

ロバート デービッド ホール ハリウッド 俳優 オーガスト マガジン

ハンディキャップを背負ってもなお、第一線で活躍する俳優を紹介したい。華やかなエンタテインメント業界において、健常者ではなく、障害者が活躍できる余地はあるのか。アメリカという場所でなら、あらゆる人が可能性を試せる素地があるのではないか。そんな疑問がこのインタビューの出発点だ。そうして得た彼の言葉には、業界のみならず、普段何気なく暮らす私たちへのメッセージがこめられていた。


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役に込める「人間らしさ」。障害があっても、ベストな環境で学べるチャンスを。

「僕は自分のことをとても幸運だと思うよ。自分のやりたいことをやって生活できているからね。たとえ事故で両足を失ったとしても、僕は歩けるし、妻と子供もいる。ゴミ捨てにもいけるし銀行にもいける。君たちと同じようなことがたくさんできるんだよ」。米人気テレビドラマ「CSI:科学捜査班」で活躍する俳優、ロバート・デービッド・ホールは、低い深みのある声で、温かく包み込むようにそう語る。


僕が障害を負ったのは、30歳のとき。フリーウエイで、飲酒運転の大きなトラックが僕の車に真横から直撃したんだ。ガスタンクが燃え上がって、かなりの火傷を負い、両足を切断。左足はひざ下からを、右足はひざ上からね。それ以降、義足か、車椅子に乗ることを余儀なくされているんだ。ちょうどその頃、僕はミュージシャンとして生計を立てていて、ラジオ局で番組を持っていたんだ。1979年ごろだったけど、ラジオ局で働くのはある意味障害者にとっては隠れられる場所。リスナーが触れるのは結局僕の声だけだからね。だけど、当時は障害者に対するちょっとした差別感がやっぱりあった。その頃から徐々に「僕にはできないこと」を周囲が言うようになったんだ。「もう君は~ができない」っていうふうにね。


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そんなとき、友人のアラン・トイが、Actors with Disabilities(障害を持つ俳優)のオーディションを受けるよう勧めてくれた。それには結局受からなかったけど、いいきっかけになって、学生時代に学んだっきりの演技をまた勉強し始めたんだ。ゴードン・ハント(アカデミー賞女優のヘレン・ハントを娘に持つ)という素晴らしい先生の元で10年間学んだ。僕の一番の才能は「頑固」ってこと(笑)。全くやめようとは思わなかったね。やがて小さな役をもらえるようになって、歳をとってきたこともあって冗談であごひげを生やしてみたら、弁護士や裁判官などの役も来るようになった。それから、たくさんの人気ドラマで役がもらえるようになったんだ。


役に込める「人間らしさ」。障害があっても、ベストな環境で学べるチャンスを。

アメリカでは、1990年に制定されたADA(Americans with Disabilities Act/アメリカ障害者法)のおかげで、障害者を取り巻く環境はずいぶん改善されたね。ショッピングモールやレストランなど全ての公共の空間で、車椅子が通る大きな入り口と広さを持ったトイレが設置されている。誰だってトイレには行かなきゃいけないし、水を飲んだり、食べたり、眠ったりしなきゃいけないわけだから、そういったものへのアクセスが確保されてるってことは最も基礎的なことなんだ。アクセスがあるかどうかは、単にドアの幅や傾斜路だけではなくて、周りの人々の障害者に対する意識が働いているかどうかってことでもある。


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例えば耳の聞こえない人が、耳が聞こえないだけで、全く何にもできないと思われてしまうのは、差別以外の何ものでもない。そういう偏見をなくしていくためにも、障害者が仕事を持つということが大切になってくると思うんだ。そのためには雇用する側、雇用される障害者の側、両方が歩み寄ることが必要。雇用する側は、それらの人のために雇用のドアを開けることが必要だし、障害者の側は、仕事を頑張らなくてはいけない。雇用される機会を要求することと、そして「社会への貢献者の一員」として受け止められること。僕は、時代がようやく、その可能性に着手し始めていると心の底から確信しているんだよ。


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ハリウッドを始め、世界のエンタテインメント業界が「障害者とはメインストリームの一部」だということに、もっと気づいてくれればと思うんだ。少し見かけが違っていても、せめてオーディションを受けさせることだけでもしてほしい。選ぶ基準を障害者のために落とすことはない。障害者は健常者と同じ速さで走れないかもしれないけど、話し方が他の人よりもうまいかもしれない。あるいはよりかっこいいかもしれないんだ。僕が出演している「CSI」はカメラマンから脚本監督、照明技師、俳優まで、約200人の人が働いている。その中で、障害者は僕一人だけだと思うんだ。もっと映画の中で障害者がごく普通の役として出てきていいと思う。役だけじゃなくて、脚本家でもいいし、プロデューサーでもいい。もちろん、エンタテインメント業界だけじゃなくてね。


障害を理由に諦める前に。

でも、少しずつ状況はよくなってきていると思う。今はテクノロジーの発達のおかげで世界中がオンラインでつながれるようになった。誰でも簡単にちょっとしたビデオが作れるようになったし、YouTubeを使えば映像も簡単に公開できるし、見られる。だから、日本の障害を持つ子供たちに言いたいんだけど、もし何か得意なことがあるんなら、障害を理由に諦めないで、ぜひやってみてほしい。チャンスに賭けたり、リスクを負うことを恐れないで。もし君が小さなビデオカメラを持っていて、ストーリーとイメージをうまく組み合わせることができたら、映画監督になれるかもしれない。俳優になるにしても、脚本家になるにしても同じこと。このテクノロジーが発達した時代では、観客はいつか君を見つけてくれる。作品を通して君を知るようになるし、君の作品が好きなら、もっと君を理解するようになるから。障害者でも、ベストな環境で学べるチャンスを得てほしいんだ。


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障害者は「ひと」であることを忘れないでほしい。障害者だって、医者や弁護士、先生や恋人の役を演じてたっておかしくないんだ。障害者にだって、健常者のストーリーと同じくらい価値があるストーリーを持ってることに変わりはないんだから。だから僕は、できる限り「人間らしさ」を自分の役に込めるようにしているんだよ。日本の人に、僕の声が届くことを嬉しく思っているよ。エンタテインメントは普遍的なこと。大学時代に黒澤明の映画を観たことを思い出すよ。たくさんの違った文化圏の人が美しい映画を撮っている。でも、異なったストーリーを語っているようで、皆似たようなことを経験しているんだと思うんだ。僕はまだ一度も日本に行ったことがないんだけど、ぜひ行かなくちゃね。


ロバート デービッド ホール(写真右) / 1971年UCLA英文学科卒業。演技を学ぶ。30歳の時の事故で両足を切断。その後再び俳優を目指し10年間演技を学んだ後、1990年頃から「L.A. Law」、「The Practice」,「 The West Wing」などの米人気TVドラマに出演。2000年から現在まで、CBSの長寿ヒットドラマ「CSI:科学捜査班」の検死官アル・ロビンス役でレギュラー出演中。また、障害者団体の委員も務め、身体障害者の芸能活動支援などにも貢献している。




 取材場所 ロサンゼルス カリフォルニア
 取材 / 撮影 堀口 美紀
 編集 / 校正 高田 友美
 発行人 池上 奨
 版元 オーガスト マガジン


当頁は2009年から2011年にかけて発行されたエンタテインメント業界向けの無料情報誌「オーガストマガジン」をオンライン向けに再構成したものです。尚、記事や写真の無断転載及び無断引用は禁止いたします。