ジョー ダレル

ロケーション・サービス オーガスト マガジン

ロサンゼルスを南に30分ほどドライブし、映画など多数の撮影に使われた、旧新聞社の建物へと向かう。 出迎えてくれた初老の男性が、LAのエンタテインメント業界に30年以上関わっているジョー。映画の本場アメリカにおいては、ロケーション・サービスはどんなふうに機能しているのか。興味深い話を聞くことができた。


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「最初は『オーガスト』って雑誌の名前だと気がつかなかったよ」。会議室風の部屋に通され、席につきながらジョーが口を開く。「8月号の意味かな、と思ったんだ。だって、オーガストっていうのは月のことだからね。Have you read August August?(オーガストの8月号はもう読んだ?)ってね(笑)」。ゆったりとした口調でそんな冗談を飛ばしながら、ジョーはこれまでの経歴について語り始める。「僕は14歳の頃からロックバンドのドラマーとして業界に関わってきたんだ。でも、その後空軍や航空会社でも仕事をした影響でバンドは自然消滅。数年後、俳優としても活動したりしたけど、やっぱり俳優としてやってくのは大変でね。自分自身よりも撮影場所の契約を結ぶ方が簡単だったんでね(笑)。ロケーション・サービスの会社をたててもう17年になる」。


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ロケーション・サービスとは、大きく言えば、撮影に使われる場所に関するあらゆる業務のこと。撮影したい場所を探すことから、その管理、運営まで、多岐に渡る。アメリカでは、その業務のひとつひとつが、職種として細分化されているのが特徴だ。ロケーション・マネージャー、ロケーション・ライブラリー、ロケーション・ブッキング・エージェント、ロケーション・スカウトと、ロケーション・サービスといっても、仕事内容がそれぞれ異なってくるわけだ。


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ジョーがメインで担っているのは、ライブラリーとブッキング・エージェント。「ある所有地の代理人として、場所をプロダクション側に見せ、契約を結ぶことが主な役割なんだ。契約は基本的には一年ごとだね。撮影の間は僕が派遣するサイト・マネージャーが現場で立ち会い、どの場所でどのように撮影すれば最もダメージなく撮影できるか、プロダクションをアシストするんだ」。撮影場所を探す方法については、企業秘密。その場所の面積数や利便性、また撮影における影響度などで、チャージされる金額が変わってくるそうだ。


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大小20の業者がいるなか、30年来の業界での経験で信頼を培ってきたジョー。これまで、地道に所有ロケーションを増やし、着実に顧客へとつなげてきた。しかし、トラブルに見舞われることも少なくない。「一番大変だったのは、この建物のプレスルームを撮影に使った、コロンビアの映画『パイナップル・エクスプレス』の爆発シーン撮影のときかな。寝ている時間にサイト・マネージャーから電話がかかってきてね。パイロテクニクス(演出に爆発や閃光などを使う火工技術)を使った撮影だったんだけど、最後の爆発が予定してたよりもちょっと大きすぎたらしいんだ。炎が天井のファンまで包んでしまってね。行ってみたら消防車がそこら中に来てたよ(笑)。でもコロンビアは大手の映画会社だから、もちろん保険もあったし、建物の所有者には『ちゃんと対応するように』と言われただけで、訴えられたりとか大きな問題にはならなかったから良かったけど」


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取材が始まって10分もしないうちに、ジョーの携帯が鳴り出す。「ハロー? Oh、『ナンバーズ』?……どういう場所が必要って?……バンク?……僕のウエブサイトはもうチェックした?『Bank』のカテゴリーを見てみて」どうやらTVドラマの「Numbers」のスカウトからの電話らしい。くだけた口調で、次々と候補の建物の住所を挙げていく。電話が終わると「この景気の影響でしばらく暇だったけど、最近やっと少し忙しくなってきたよ」とにこにこ顔だ。「僕のウエブサイトでは、ライブラリーとして、数千のロケーション候補の写真が見られるようになってるんだ。こういう雑誌に取材されて記事になるのも、会社にとってはいい広告になるね(笑)」膨大な数のロケーションの中でも、探すのが難しい場所はどんなところか尋ねてみたところ、「銀行」という答えが返ってきた。「この不景気で閉鎖された銀行はたくさんあるだろうけど、そのオフィスにデスクなんかの備品が残っていることは少ないんだ。それが残ってたら撮影場所としてはどれだけ価値があがることか。所有者がそれを知っていてくれたらねえ」と苦笑い。簡単には思うような場所が見つからない苦労をうかがわせる。


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再び電話がかかってきた。撮影場所に教会を探しているプロダクションらしい。「……$2800が僕が出せる一番安いレートだよ。……OK、また連絡してね」電話が終わり、ジョーが説明してくれた。「始めに『あまり予算がない』と言われたんだ。だから『普段は一日$4500~$6000で貸す場所だけど、$2800でいいよ』とオファーしたんだ。でもどうもそれもなかったみたいだけどね(笑)。僕の仕事で最も難しい点は、プロダクション側とオーナー側両サイドが満足するような値段を交渉することだね。予算がほとんどないのに一日100万円ほどする場所をどうにか借りようとするプロダクションもたまにいるけど、それはありえない話だからね(笑)」さまざまなキャリアを経てロケーション・サービスにたどりついたジョー。この仕事をやっていく秘訣については、こう話してくれた。「僕の仕事で一番大切なことは、何度も確かめること。契約の交渉、保険の証書、撮影許可証とスケジュールの確認。3、4つのプロダクションが同じ週に同じ場所で撮影することもあるから、正確な情報を把握してないと大変なことになる。それに、見えないリスクは常に存在する。プロダクション側がロケーションにいる間はそこで実施される全てのことについて、自分たちがコントロールできるよう心がけているんだ。このキャリアにとっては、LAに生まれ育ったことは強みだろうね。でもやっぱり、自分が請け負うロケーションと所有者を大切にすることで得た信頼が、成功の理由だと思う」。


ジョー ダレル / ロサンゼルス生まれ。14歳の頃からロックバンド・ミュージシャンとして業界にかかわる。その後空軍、航空会社、俳優、セット・フォトグラファーなどの仕事を重ね、17年前にロケーション・サービスの会社を始める。これまでに映画「ターミネーター3」、「パイナップル・エクスプレス」やTVシリーズ「ER」「Medium」「Heros」他、多数のコマーシャル撮影に携わる。

 取材場所 トーランス カリフォルニア
 取材 / 撮影 堀口 美紀
 編集 / 校正 高田 友美
 発行人 池上 奨
 版元 オーガスト マガジン


当頁は2009年から2011年にかけて発行されたエンタテインメント業界向けの無料情報誌「オーガストマガジン」をオンライン向けに再構成したものです。尚、記事や写真の無断転載及び無断引用は禁止いたします。