クリストファー ヴォルカー

クリストファー ヴォルカー フォトグラファー オーガスト マガジン

握手に力は込められない。ロサンゼルスのフォトグラファーとして20年以上のキャリアを持つクリスは、幾度も彼自身に降りかかる苦難や偏見を、成功へと変えていく努力を惜しまない人だった。彼が障害を負ったのは、1977年16歳のときのバイク事故。脊髄損傷を負い両手足を麻痺するという重い後遺症が残った。写真を始めたのは、「ローリング・ストーン」誌に載っていたリチャード・アベドン(Richard Avedon)の写真に衝撃をうけたことがきっかけ。フォトグラファーになって以後、さまざまな撮影現場を経験し、1990年には「ヴォルカー・スタジオ」を設立した。今も、音楽、TV、映画などフォトグラファーとして第一線で活躍する。


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僕はこのスタジオを「僕の小さなバイオスフィア(生物圏)」と呼んでいるんだ。一度ここに入ってしまったら、もう自分がヨーロッパにいるのか月の上にいるのかわからないからね(笑)。僕の想像力と大きなステージのおかげでね。リフトを使えば天井の高さから撮影することもできるしね。僕は世界中の有名フォトグラファーと競争しなくちゃいけない。これまでの23年間、ずっとそうだった。彼らにとっては、僕が障害者だってことはどうでもいいことだからね。僕がすごく面白い作品を生み続けない限り、誰も僕と話したいなんて思わないよ。障害と言っても色んなケースがあって、精神や心に障害を持っている人たちもいるよね。僕は身体の障害だったけど、頭の中は本当にシャープなんだよ。常にものを考えていて、新しいものを創りだしている。


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フォトグラファーとして特に困ることはないね。ただ、僕のウエブサイトで写真を見て連絡をくれた人が、打ち合わせの場で車椅子に乗っている僕を見て、後で仕事がキャンセルになったとか、そういうことはよくあるんだ。ある服の広告キャンペーンの撮影で、3日間かけて20セットもの撮影をしたんだけど、そのときも、アート・ディレクターがオフィスで最初に僕と会って驚いたようだった。それでも最後は「OK、やりましょう!」っていってくれて、結果的にはとても良い撮影になったんだ。後で「最初はフォトグラファーが車椅子に乗っているなんて、ちょっと変な気持ちだったけど、今でとても視野が狭かったって思う」と言ってくれたのは、嬉しかったね。


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僕はこうやってプロになって、ロバート デービッド ホールに出会えたことが嬉しい。雑誌の撮影の仕事で5年前に知り合って以来、僕たちは大親友なんだ。お互いたくさんの試練を乗り越えてここまで来たと思う。デービッドは、他の俳優たちとは違って、障害者コミュニティへも多大な貢献をしてるんだ。オバマ大統領にあったり国連の会議に出席したり。本当にすばらしい人だよ。僕も、写真を志している、ロンドンの障害を持つ少女の相談に乗ったり、個人的なサポートをしたりしてるよ。昨年12月には、ギリシャ政府に招待されて「国際障害者デー」のシンポジウムに参加してきたんだ。社会全体でもっと障害に対する意識を高めようっていう取り組みの一環で、2000人もの参加者がいた。


そこで僕は、「障害を持ちながらも理想的な生活をしている」として、ブロンズ・メダルを授与されたんだ。あとは僕の写真をギャラリーとして展示してくれたり、フォト・スタジオで参加者を撮影したりね。すばらしい体験になったよ。障害者に対する差別は有色人種に対する差別と同じなんだ。また、年をとれば身体的障害っていうのは誰もが持つものなのだから、それに対する差別っていうのは、長い目で見れば老後の自分自身に対する差別と同じなんだよね。でも、社会が発展していくうちに、将来きっと、自分の家族と同じように障害者も社会の一員なんだって、社会全体で考えられるようになっていると思うんだ。


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エンタテインメント業界で働くのは常に戦い。ステレオタイプな見方を助長するんじゃなくて、障害を持った人でも達成できることに対して、業界はもっと心をオープンにしてほしい。障害を持つ俳優の数は総人口の0.5%にすぎない。アメリカでは約3億人の人口に対して、5400万人が何らかの障害を持っているはずなのにね。つまり1割以上の割合を占めてるんだよ。でも、フォトグラファーに関しては、業界で僕一人だけだと思うよ。アカデミー賞をとる撮影監督や、その他様々なジャンルのプロ達の中に何でもっと障害者がいないのかな、って。やっぱりどこかで排除されてしまっているんだよ。


僕にとっては、「拒否」されることが一番きつい。僕の顧客は大体僕のウエブサイトを見て僕に仕事を頼んでくるけど、もし僕が車椅子に乗って自分のポートフォリオを見せてまわってたら、今のようにはなってないんじゃないかな。でも、僕が尊敬する本物の「プロ」は、作品を通して生きているフォトグラファー達。ただ単にそれで生活してるっていうことではなくて、写真を芸術として捉え、個人的な作品にしろコマーシャルな作品にしろ、懸命に学んで、それが大好きなものであるということ。写真を愛し、写真が生活の一部であるということ。それは作品にとても大きな違いを生む。魂がこもっているっていうか、心の底から求めたものっていうか。僕はピアニストや絵描きにはなれない。でも芸術的に優れた全ての人は、どうやればそれを達成できるか、すでに知っていると思うんだ。自分の気持ちに本当に正直で、自分がやっていることとその芸術。自分が最も親しめて、一緒に成長していけるものについてよく理解すれば、きっと成功できると思うんだ。

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クリストファー ヴォルカー / 16歳のバイクの事故で両手両足に麻痺を負う。1990年ロサンゼルス郊外のノースリッジに5200sf(1585㎡)のVoelker Studioを設立。ユニバーサルやパラマンウントなどの大手スタジオやTV局の仕事をこなす一流フォトグラファーとしてLAで活躍。撮影したセレブは、ビヨンセ、ブランディ、クリスティナ・アップルゲイト、ロバート・デービッド・ホールなど多数。(公式ウェブサイト / www.voelkerstudio.com

 取材場所 ロサンゼルス カリフォルニア
 取材 / 撮影 堀口 美紀
 編集 / 校正 高田 友美
 発行人 池上 奨
 版元 オーガスト マガジン


当頁は2009年から2011年にかけて発行されたエンタテインメント業界向けの無料情報誌「オーガストマガジン」をオンライン向けに再構成したものです。尚、記事や写真の無断転載及び無断引用は禁止いたします。