アーロン ジェイ モス

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誠実で親しみやすい雰囲気、わかりやすく的確な話し方をする、著名人をも顧客に持つ. エンタテインメント業界の訴訟弁護士、アーロン・モス氏。ビジネス契約とは違い、複雑になりがちな知的所有権をめぐる法律問題を扱う仕事が楽しいと言う。東宝のゴジラに関するケースも担当する、米トップ5%のエンタテインメント弁護士にアメリカの訴訟事情について聞いた。


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Q.エンターテインメント専門の弁護士になったきっかけ。

僕は、ずっとエンターテインメント業界で働きたいと思っていたんです。UCLAでコミュニケーション専攻でしたが、映画会社などで脚本やTV番組の企画に関わるような、クリエイティブで面白い仕事がしたいと考えていました。しかし「もし大学を出てエンターテインメント業界に入るとしても、おそらく長い期間、電話を受けたりするだけのアシスタントをしなければいけないんだろうな」「4年間大学で勉強した後でそういうことをしたいだろうか」とも思っていたんです。そこでLSAT(エルサット:アメリカの法律分野の学校に入るために受ける試験)を受けてみたら結果がとてもよくて、ハーバード大学の法学部大学院に入れることになったんです。せっかくの有名大学に入れる機会を拒否することはないと、結局法律の道を進むことに決めました。大好きなエンターテインメントと法律を共に生かせる仕事に就こうと思ったわけです。


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Q. エンターテインメント弁護士とは?

エンターテインメント弁護士には大きく分けて2つのタイプがあって、一つはトランザクショナル・ロイヤー(Transactional Lawyer)と言って、契約の交渉を請け負うタイプ。うちにもトランザクショナル部門があって、俳優、監督、プロデューサーなどの顧客のためにスタジオやプロダクション会社を相手に契約の交渉を請け負っています。もう一つのタイプはエンターテインメント・リティゲーター(Entertainment Litigator)と言って、僕のように、交渉がうまく進まなかったときに呼ばれるタイプです(笑)。これは、あまり魅力的な仕事ではないとも言えるんです。前者(トランザクショナル・ロイヤー)の仕事は、交渉成立後には自分の顧客も相手側も両方が満足して終わりますよね。その後両者が映画やTV番組などで働いて、要するにビジネスの関係ができる。僕のような訴訟を請け負うタイプの弁護士が呼ばれるのは、決まって顧客たちの機嫌が悪いときですからね(笑)。つまり、誰かが契約上の規則を破ったり、知的所有物を勝手に使ってしまったりしたときです。

でも僕はこのタイプの弁護士業を楽しんでいます。より複雑な法律の分野を取り扱うタイプの仕事が楽しいんです。どういうふうに複雑かというと、例えば結婚式などで写真を撮ると、著作権はフォトグラファーが所有することになりますよね。お客さんは自分の結婚式のプリントが欲しければ、勝手に印刷できず、フォトグラファーから購入する必要がある。でも「肖像権」と言う権利もあって、フォトグラファーがお客さんの写真を承諾なしで広告に使ったりすると、それは「肖像権の侵害」となってしまう。なので、両者ともが写真を勝手に使用できないケースがあり、複雑な問題があります。だから裁判のために働くだけではなくて、顧客にどんな権利があるかということをアドバイスするのも仕事のひとつです。例えば映画やTVドラマになる脚本を製作が始まる前に読んで、誰かの権利が侵害されてないかを確認するのも僕の仕事なんです。


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Q 実際に起こる訴訟について。

契約書の違反で複雑なケースですね。例えば脚本の著作権を持つ会社が、映画会社と契約を交わして、映画の売り上げ利益の何パーセントかを受け取ることにした場合、すごい売り上げのあった映画でも支払いがゼロの場合があるんです。つまり映画会社の使う純利益の定義が曖昧であったり複雑だったりして、「利益がほとんどなかった」と映画会社が言う場合がよくあるんです。また、映画がヒットした場合、誰かが「自分が提出した脚本を使われた」と訴えるケースが頻繁に起きます。最近では「アバター」でもそうでしたよね。つまり、ヒット映画が出るたびに誰かが被害にあったと訴えだします。証明するのが難しい場合がほとんどですけどね。例えば僕のパートナーが「ロード・オブ・ザ・リング」3部作の原作を書いた小説家トールキン氏の家族の弁護を担当したことがあります。映画を製作したニュー・ライン・シネマ(ワーナー・ブラザーズの子会社)が、あれだけヒットした映画にも関わらず、「利益はなかった」として、約束したパーセンテージを払わなかったんです。先ほど話したように、非常に複雑な定義に基づいた映画会社が定める「利益」なんですけどね。これは和解が成立して裁判まで行きませんでした。世界中であれだけ売り上げのあった3部作に利益が生まれなかったなんて、ワーナー・ブラザーズという大企業が陪審員の前で証明するのは難しいでしょうからね。


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Q.自分のアイデアを守る方法とは。

多くの場合、映画会社はライターのアイデアを聞く機会を持って、もし気に入れば脚本を買い取るのですが、たまに却下された特定のアイデアが数年後に製作された映画の内容と酷似しているケースなどがありますね。そこで、アイデアの提案をするとき、もしこれが映画などに使われた場合、自分に支払われるべきだということを明確にしておくことですね。例えば、家に帰ってから「会っていただいてどうもありがとうございました。今日お話したことは○○○です。良いお返事をお待ちしています」などとお礼を兼ねてメールを出し、証拠になるものを作っておくと良いですね。あと作品のコピーなどがあると、なお良いですね。


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Q 東宝の「ゴジラ」を守る仕事。

この法律事務所は過去25年間、東宝の代理を務めています。アメリカでのどんなケースでも請け負っていますが、最も有名なのはやはり「ゴジラ」ですね。ここアメリカでは、「ゴジラ」はパブリック・ドメイン(著作権が誰のものでもなくて、誰でも好きなように使えるもの)だと勘違いしている人も多いんです。あるいは、ゴジラは日本の映画だからここで使っても見つからないだろうと思っている人もいます。彼らが知らないのは、東宝は映画のキャラクターたちを守るのに非常に積極的だということです。でもそれが当たり前なんです。知的財産権やトレードマークを所有する者にとって、それらを守ろうとしないのは、それらの権利を失うと言うことですからね。そこでパートナー達と共に何年にも渡り、ゴジラが他の会社に無許可で使われたケースに関わってきました。多くの場合は、削除通告を送って解決するのですが、訴訟に発展するケースも50ほどありましたね。


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何年か前にサンドイッチチェーンのサブウエイとの面白いケースがありました。サブウエイの「$5フットロング」のCMの中で、僕たちが思うにゴジラのキャラクターが使用されているシーンがありました。サブウエイ側は「ビッグ・グリーン・モンスター」で、ゴジラではないと主張していたんです。でもその「モンスター」が街をどしどしと練り歩いたり、日本人女性が悲鳴をあげるシーンなどもあったりして(笑)。僕たちは「これはゴジラだ!」と。こういうとき、よくあるのが「これはゴジラではなくて恐竜なんです。ティラノサウルスです」とか「単によくある緑色のモンスターです。」などと相手側が言い出すことです。なので裁判官にもティラノサウルスはどのような外観をしているか説明する必要がありました(笑)。とにかく、「ゴジラか、ただの恐竜か」の議論になるんです。


他にも、ヤンキースに入った松井選手のあだ名が「ゴジラ松井」なので、ヤンキースの球場でビニール製の空気で膨らませたゴジラの人形を売っていたケースもありました。人形などの製品については、東宝は他のメーカーが使用料を払ってゴジラを作ることを許可しています。だから他の業者が無許可でゴジラの人形を作ることは不公平になるんです。正規の使用料を払っている業者がいるんですからね。時にはアメリカで公開されなかったゴジラ映画のコピーをeBayなどで無許可で売っている人もいたり、あるいは中古車販売店でゴジラの巨大な風船を客寄せに使っていたりというケースもあります。この場合は販売店だけでなく、風船の製造業者にも削除通告を送って中止させるようにしています。たまに「使用許可を受けたい」と相手側が申し出る場合もあるのですが、東宝はそういった業者にはかなり厳しくて、まず許可を出すことはありませんね。

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Q. 「Firefox」などを提供する非営利団体Mozilla(モジラ)について。

僕はMozillaについては担当していないのでその件については答えられないのですが、基本的には会社の名前において「……zilla」の接尾語を使用している場合でも、ゴジラのイメージを商品やサービスなどの販売促進に使用しない限りは使用を認める傾向にあります。以前、確か「leadzilla」というような名前のセールス・リード(特定の商品・サービスを探している客の名前、電話番号、メールアドレスなど情報)を売っているウエブサイトがありましたが、-zillaという接尾語だけでなくゴジラの写真も使っていたので、それは中止させました。ただ、ゴジラのファンサイトなどゴジラの熱心なファンが意見交換できるサイトでゴジラの写真がアップされている場合、PRの面からしても熱心なゴジラファンを追求することはしたくないですよね。だから、どの件を追うかはケース・バイ・ケースで判断しているようです。


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Q. 著名人(セレブリティ)にまつわるケース。

セレブリティには名前・何がお気に入りかなど、それ自体に価値がありますよね。だから広告主はそういったものにお金を払って使用します。しかし、セレブリティの中には安っぽいと思われるのが嫌で、自分の名前を広告のために使いたがらない人もいます。でも企業が勝手にセレブリティの名前や好みを使う場合がよくあるんです。


例えば、トム・クルーズとニコール・キッドマンがまだ結婚していた頃、コスメティック・メーカーのセフォラがパンフレット上の記事において、ある香水を彼らが好むだろうと示唆する内容のものを二人の写真と共に載せました。つまり商品と二人の名前を関連づけたわけですね。でも彼らは別にその商品を使用も推奨もしているわけではなかったんです。なので、僕たちは広告目的で彼らの名前が使用されたと訴えました。セフォラ側は、これは広告ではなく、雑誌の記事として載せたのだと主張してきました。アメリカでは、雑誌の記事としてセレブの写真を載せたり、彼らについて書いたりするのは、憲法で認められている「発言の自由」と、セレブリティがパブリック・フィギュア(政治家、ビジネスリーダー、セレブリティなど、公の場に出てくることが多い人物のことを指す)であることから認められています。タブロイド紙で頻繁にセレブリティのゴシップ記事が書かれているように、名誉毀損にあたらない限り何を書いてもいいんです。しかし、それが広告に使われた場合、権利の侵害となります。

そのセフォラが発行していた雑誌は、店内に置かれている無料のもので、それ以外はどこにも流通していませんでした。雑誌に載っていた商品もセフォラで売られているものだけ、つまりセフォラの客だけに向けた、カタログのようなものだったんですね。結局は裁判になる前に和解が成立しました。エンターテインメント業界では、訴訟に発展するような大きなケースは、一方あるいは両方が、裁判になる前に和解に向けて動くことが多いですね。裁判になると大きなニュースになりますし、悪いイメージが流れてしまうので、そういったことを防ぐためです。また、最近見られる傾向としては、裁判所で陪審員に決めてもらうより、仲裁人に決めてもらうのを選ぶことが多いようです。仲裁人は大体が引退した元裁判官か弁護士で、彼らのオフィスで行います。この方法をとると裁判所とは違って、内容は完全にプライベートなものになりますからね。報道されることなく和解を行える、一つの方法なんですね。


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Q. エンターテインメント企業や著名人を顧客に持つことについて。

先ほども話した通り、顧客が僕に会いに来るときは大抵気が動転してますから、そんなに楽しくはないですよね(笑)。でもセレブリティたちは長い期間自分たちのイメージを磨いてきたわけですから。自分が認めてもいない製品のために誰かが無許可でそのイメージを使用したら、気が動転して当たり前です。もちろんセレブリティの弁護をして、結果が良ければ映画のプレミアなどに招待されたりもするんですが、でもそれが目的でセレブリティやエンターテイメント企業の代理を担当しているわけではないんです。僕はこの業界での問題や法的なチャレンジに興味があって、それが楽しいからこの仕事をしているんです。ハリウッドのエージェントやマネージャーとは違って、パーティーに積極的に参加したりとか、そういうことはしないんですよ。僕は、このオフィスで顧客の権利を守ろうとするだけでいいんです。セレブリティと遊んだりとかはないですよ。家に帰って子供と遊んでる方が楽しいですからね(笑)


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アーロン ジェイ モス / ロサンゼルス生まれ UCLAを1994年、ハーバード大学院法学部を1997年に卒業後、大手法律事務所・グリーンバーグ・グラスカーに入社。著名人、映画企業やプロダクション会社を顧客に持ち、エンターテインメント業界での契約書違反や著作権・商標権侵害など法的紛争/訴訟の代理人を務めてきた。アメリカで侵害され続ける東宝の「ゴジラ」の商標権も担当。顧客にはトム・クルーズやダスティン・ホフマンなどの俳優も。毎年発行される米トップ5%弁護士の情報を載せた「スーパー・ロイヤーズ」誌に2004-2009年「ライジング・スター」として名前が載る。現在同社の共同経営者であり、同社訴訟グループの議長も務める。


 取材場所 センチュリー シティ カリフォルニア
 取材 / 撮影 堀口 美紀
 編集 / 校正 高田 友美
 発行人 池上 奨
 版元 オーガスト マガジン


当頁は2009年から2011年にかけて発行されたエンタテインメント業界向けの無料情報誌「オーガストマガジン」をオンライン向けに再構成したものです。尚、記事や写真の無断転載及び無断引用は禁止いたします。