アメリカ空軍 エンタテインメント リエゾン オフィス

アメリカ空軍 リエゾン オフィス オーガスト マガジン

1927年、第1回アカデミー賞の最優秀作品賞を受賞した映画<WINGS(邦題 つばさ)>。パラマウント社製作のこのサイレント映画は、第一次世界大戦における空中戦を描き、同時に技術効果賞も受賞した。その後に続く戦闘映画のさきがけとなった大作だ。実はこの映画こそ、空軍のサポートによって撮影されたものだ。1920年代から始まるハリウッド映画において、こうした戦闘機や軍ものが隆盛した。実世界の第一次世界大戦開戦に伴う航空機の活躍も後押しし、戦争やパイロットの人生を描く映画はハリウッドの一時代を築く。そして、このころからハリウッドと空軍との深い関係が始まっていくのである。

アメリカ空軍 リエゾン オフィス オーガスト マガジン

「昔はハリウッドのスタッフも、空軍で仕事をしたことのある人が多かったんです。みんな軍での経験を持っていたので、ある程度軍についての知識もあった。だから、映画界と空軍が一緒に仕事をするというのは自然な流れでもあったんです」。そう教えてくれたのは、空軍エンタテインメント・リエゾン・オフィスのディレクター、フランシスコ・ジー・ハム氏だ。彼が所属するのは、映画やテレビなどの空軍にまつわる撮影についてサポートを担う、空軍のリエゾン・オフィス。戦闘機やパイロットものの映画が人気を集めるにしたがい、1947年オハイオ州にこのオフィスの原型である広報部門が設置された。ハム氏によれば、その頃はテスト飛行や飛行機の製造などについての情報提供がメインだったそうだ。しかし次第にそのニーズが拡大。現在のように、パイロットから戦闘機の撮影まで、総合的に協力するまでになった。

アメリカ空軍 リエゾン オフィス オーガスト マガジン

最近では「アイアンマン 2」(2010)、「トランスフォーマー リベンジ」(2009)などが空軍のサポートを受け、製作された。ハム氏によれば、政治的な要因から、とくに60年代から70年代などは、映画界が軍の力をかりて映像製作をしたがらない時期もあったそうだ。しかし、ここ数年でまた少し増加傾向にあるという。現在は、「トランスフォーマー」のシリーズ3作目のフル・サポートを担っている。

アメリカ空軍 リエゾン オフィス オーガスト マガジン

プロダクションが軍にサポートを依頼するときには、必ず脚本の提出が求められる。内容に問題がある場合は、お互いに話し合った上で撮影サポートするか否かを決定する。「脚本の選考基準として、ストーリーとして軍が必ずしもポジティブに描かれている必要はないんです。誰かが間違ったことをして、成り行きとして軍が罰せられるというのは問題ありません。だた、理由もなくやみくもにネガティブに描かれている場合は、サポートしない傾向にはありますね」。(ハム氏)その後、要望に応じて、出動する飛行機、車両、ロケーションなどを交渉しつつ、提供できるもの、支援内容を決定していく。撮影は、できる限りすでに予定されている基地内のトレーニングや機材などを利用して行われるよう調整。その他、生じる必要経費は、プロダクション側が負担。パイロットのエキストラが必要な場合は、撮影日が休日となるパイロットの希望者のみを募って、プロダクション側に雇ってもらう。つまり、この撮影サポート事業のために、納税者の税金が使われることはないということだ。

アメリカ空軍 リエゾン オフィス オーガスト マガジン

「空軍は、撮影サポートをすることでお金儲けはしていません。この仕事は、空軍の正しいイメージをPRするいい機会になります。エンタテインメントを通じてアメリカ国民に空軍について知ってもらうことができる。とくに若者に対してはいいきっかけになります。私たちにとっても投資なんです」。フル・サポートをする映画は、年2、3本。このオフィスには、ハム氏以外に3人が常駐しているが、脚本を受け取って公開するまで1年以上かかる長期プロジェクトになるため、1つを担当することになれば、それが完了するまで他を受けることはない。


ただし、国防を担う空軍にとって、世界情勢や有事は最優先事項。まだ記憶に新しいハイチでの大地震が起こったちょうどその頃、テレビドラマでC-17という軍用大型長距離輸送機を軍の基地内で撮影する予定になっていたそうだ。しかし、すべてのC-17をハイチに輸送。当然ながらその撮影はキャンセルされた。「その後、ハイチの状況が落ち着いてからこの撮影は再開されましたが、実世界の使命が最優先だということは言うまでもありません。空軍内でのこの部署の優先権は最も低いところにある」。

このオフィスでは、軍用機などのハード面での協力のほか、専門的な知識や技術などのソフト面でもアドバイスや助言なども行う。例えば「アイアンマン 2」では、映画の中で空軍が「ウォーマシーン」というロボットスーツの開発を進めるくだりがある。そこで、実際に空軍が開発するとしたらロゴはどうつけるのかなど検討し、デザイン案などアドバイスした。また、実際の撮影に入る前に、俳優たちを国防省に招待し、空軍という職場を見てもらう機会も提供している。空軍がどのような規則のもとで、どんなふうに休憩を取ったり、挨拶したりするのか、文化的、伝統的な側面からもサポートしているというわけだ。

アメリカ空軍 リエゾン オフィス オーガスト マガジン

ジー・ハム氏はこう話す。「たとえば、映画やテレビドラマを見ていても、軍についての決定的な間違いが2つあります。ひとつは、私たちは建物内では軍帽をかぶらないこと。もうひとつは、建物内でいちいち敬礼をしません。そうする場合は、上官に正式な報告をしに行くときだけで、とても稀なこと。でも、私たちのサポートを受けていない映像作品にはよく見られる傾向です」。技術的、専門的なアドバイス以外で、プロの俳優たちの演技を直接指導することはほとんどない。映像というクリエイティブの世界で、100%の正確な描写を求めることはこのオフィスの使命ではない。しかし、ユニフォームの正しい着方や振る舞いまで、現場に求められるキャラクターを日常こなしている兵士たちが参加することで、映像にリアルさが加わる。現場が描写の正確性を求めるなら、空軍のサポートを受ける利点はやはり大きい。

アメリカ空軍 リエゾン オフィス オーガスト マガジン

エンタテインメントと軍という、全く異なる二つの文化が混ざり合い、プロジェクトを共にする。どうすれば空軍としていい仕事ができるか。それを追い求めるとき、より柔軟なコミュニケーションや行動が必要になることもある。とても難易度の高い仕事だ。それでも、アメリカ国民にとって空軍を全く違った環境で見られる絶好の機会。そのチャンスを最大限に生かしたいと、ハム氏は言う。「この仕事をしていて、一番すばらしいと思うのは、ハリウッドの人たちがここへ来て兵士たちと数日を過ごすと、まるで魔法にかかったようにお互いがお互いの仕事に大きな関心とリスペクトを抱くようになるということです。

アメリカ空軍 リエゾン オフィス オーガスト マガジン

意外に思われるかもしれないけれど、全く異なる二つのコミュニティがお互いに魅了され、親近感を持つようになるんです。こういう瞬間に出会えるのは、一番うれしいことです」今後ますます大規模な撮影が行われていくハリウッド映画を、空軍が一役買ってともに作りあげる。そのイメージはなんとも痛快だ。国防という重要な任務を果たしながら、同時にハリウッドを通じて全世界へアピールする。映画というフィルターを通して見えてくる、空軍との絶妙なコラボレーション。さまざまな障壁を飛び越えて、今後も想像を超えたスケールの作品が次々と生み出されていくことだろう。

アメリカ空軍・エンタテインメント・リエゾン・オフィスへの申請方法

下記はアメリカ空軍・エンタテインメント・リエゾン・オフィスからサポートを受けるための概要を一部抜粋したものになります。現在の契約条件とは異なっている可能性もございますので、予めご了承ください。(このサポート概要は上記オフィスより許可を得て、翻訳・編集しています。 オーガスト マガジンの許可なく、写真・本文の無断転載は固くお断りします)

アメリカ空軍 リエゾン オフィス オーガスト マガジン

プロダクション会社から事務局宛に封書で申請。会社についての情報、プロジェクト内容、 必要なサポートやそれを受けることの利点などを明記して提出。 米国防省から許可が下りるまでに6~10週間。ほとんどの場合はプロジェクト・オフィサーによって技術的なアドバイスがなされるが、より特殊なスキルや専門性が必要な場合は、アドバイザーを別でリクエストすることも可能。フル・サポートの許可が下りなかった場合は、空軍の関連施設や機材を使用することはできないが、優遇処置として脚本などに描かれた内容の正確性をチェックしてもらえたり、ロケ先でのアシスタントなどもリクエストすることが可能となっている。

 同意事項<1> 米国防省が、軍のサポートを手配し、その描写が承 認された脚本に沿っているかを確認するためのプロ ジェクト・オフィサーを指名する。
 同意事項<2> プロダクション会社は、承認された脚本に変更があった場合、プロジェクト・オフィサーの意見を聞くこと。
 同意事項<3> サポートすることで、軍の運営能力に害を生じることがあってはならない。
 同意事項<4> 国防省の安全基準から外れるものは認められない。
 同意事項<5> 国防省の所有物を損壊してはならない。使用する場合は、貸し出す前とほぼ同じ状態かそれ以上のよい状態で返却すること。
 同意事項<6> プロダクション会社は、国防省や事務局、スタッフ に対し、怪我などの障害補償を請け負うこと。
 同意事項<7> プロダクション会社は、国防省(ワシントンDC) やその他の場所での試写を手配すること。
 同意事項<8> 適切な軍のクレジット(撮影協力)を入れること。
 同意事項<9> プロダクション会社は、記録用、内部資料として、 ビデオテープ、ポスター、写真、そのほかのメディア素材を国防省に提供すること。


米空軍中佐フランシスコ・ジー・ハム / テキサス生まれ。1988年Texas Tech 大学を卒業後、アメリカ空軍に入隊。2004年、イラクでの民主選挙を成功に導くなどして活躍の後、2006年、新設された「ニューメディア」部門の創設メンバーとしてディレクターに就任。2008年にはハム氏のクリエイティブ・チームが担当した「Check It」キャンペーンで米PR協会(Public Relations Society of America)から銀賞授与。2008年6月より現在に至る。

アメリカ空軍エンタテインメント リエゾン オフィス / 空軍に関わるあらゆる事柄について、映画やテレビなど撮影(ディレクター、プロデューサー、ライター、小道具、衣装、編集など)における支援・サポートを行う。主なサービス内容には、空軍に関する描写の正確性のチェック、脚本へのアドバイス、空軍機や空軍施設内での撮影の手配、ストック映像の提供、エキストラとしての空軍兵士の手配などを行う。

 取材場所 ロサンゼルス カリフォルニア
 取材 / 撮影 堀口 美紀
 編集 / 校正 高田 友美
 発行人 池上 奨
 版元 オーガスト マガジン


当頁は2009年から2011年にかけて発行されたエンタテインメント業界向けの無料情報誌「オーガストマガジン」をオンライン向けに再構成したものです。尚、記事や写真の無断転載及び無断引用は禁止いたします。